体だけでなく、こころのケアも大切に

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在宅ですごす時間が増え、いつもと違う環境での生活が続いています。さらに、ウイルスに関するさまざまな情報も目にするようになりました。不安や心配で胸がいっぱいではありませんか? 体だけでなく、こころの健康を維持していくためにはどうしたらいいのか、精神科医の吉野聡先生にお話を伺います。

TOPICS

  • まず、こころの状態を知りましょう
  • 生活リズムをととのえましょう
  • 声を出して話す機会を
  • 情報とは一定の距離を保って
  • 小さな目標を持ちましょう
  • 誰もが、生きる力を持っています
  • 不安が強くなったら専門家に相談を

まず、こころの状態を知りましょう

今、どんなことに不安を感じていますか? 「不安を抱えている」「心配で悩んでいる」という状況に、つらくなってはいませんか?

大丈夫です。不安な感情を持つことは正常な反応です。

いつもと異なる状況におかれたら、誰しも心配になります。それは人間が本来持っている防御反応であり未知なものへの警戒心なのですから、まずは、あなたが今、不安に思っていることを認めてあげてください。

不安な状態でいいのだと思えたら、次は、どんなことに不安を感じているかを把握しましょう

たとえば…

ウイルスそのものに対する不安
コロナウイルスは「新型」であって未知のものです。どのような症状が出るのか、これからの感染者数がどう変化していくのか。そのことに不安を感じるかたは多いことでしょう。

人との関係に対する不安
生活しているなかで出会う人が感染しているかもしれない。逆に自分が感染していて家族や周囲の人に移してしまうかもしれないという不安です。

社会に対する不安
今の仕事を続けられるのだろうか。生活が破綻する可能性はないだろうか。もしも感染してしまったら、職場や近所から非難の目を向けられるかもしれない。社会全体に対する不安です。

というものが挙げられます。このように、あなたが不安に感じている対象が何かを知っておけば、やみくもに不安が広がるのを防ぐことができるのです

新型コロナウイルスについては、わからないことが多く、いつ終わるかもわかりません。ふだん不安に思わない人ですら、こころがモヤモヤしてくるものです。今の状況で感じる不安は、人間としての防御反応であって病気ではありませんから、受け入れて理解しましょう。

落ち着かない状況は続きます。不安をむやみに増大させず、うまくつきあっていく方法をお伝えします。

生活リズムをととのえましょう

いつもと違った状況でこころを落ち着かせるのは難しいことです。少しでもいつもの生活を意識できるように、暮らしのリズムを大切にしましょう。勤務や外出の機会が減るとペースが崩れてしまいます。

✔ 寝食の時間を決める
✔ 夕方に散歩をする
✔ 歯を磨きながら明日の予定を考える

など、一定のルーティンをつくってみましょう。いつも通り同じ生活だと認識できると、不安な気持ちが生まれにくくなります。

この生活のルーティンの中には、できるだけかんたんな運動を取り入れるようにしてください。体を動かすことによって、不安が和らぐことは多くの研究で明らかになっています

たとえば…

✔ 毎朝10分散歩をする
✔ お風呂上がりにストレッチをする
✔ テレビを見ながらヨガをする

といったかんたんな運動でも大丈夫です。

また、家事を運動と捉えることもできます。お風呂やトイレの掃除、窓拭き、庭の草むしり、掃き掃除などは、からだを動かすことにつながります。住まいが整えば気持ちもすっきりするはず。ぜひ取り組んでみてください。

声を出して話す機会を

在宅勤務の時間が増え、外出自粛が続くにつれて、同僚や友人と直接話す機会が減っていきます。このような状況下では友人や離れて暮らす家族への連絡も、「用事がないから」とためらうかたもいるでしょう。人との交流が減ると、一人で考える時間が増えていき、どうしても悪い想像が広がってしまいがちです

そうならないためには、電話やオンラインなどでのコミュニケーションをとるように心がけてください。なにげない話をするのでもいいですし、不安な気持ちを口に出すことも大切です。今はたくさんのかたが不安を抱えているでしょうから、相手もきっと安心するはずです。

できるだけ、電話などの音声通話を選びましょう。メールなどの「書く」ツールは、つい身構えてしまいます。屈託のない会話が不安な気持ちを和らげてくれますし、自分の気持ちを話しているうちに頭が整理される効果もあります

情報とは一定の距離を保って

テレビやネットでは、さまざまなニュースが発信されています。もちろん、自分にとって必要な情報を知ることは大切です。しかし、なかには不正確なものもあれば、不安を煽る意見なども見られます。目にすればするほど、不安は増大するものなので、距離を保つようにしましょう

たとえば…

✔ 一日中テレビをつけっぱなしにしない
✔ ニュースは一つか二つの番組に限定する
✔ ネットで情報を見る時間を決める(1日1時間まで)
✔ 信頼できるサイト(公的機関など)だけを見る

などと、自分なりにルールを決めてみましょう。情報量のコントロールは、こころの安定につながっていきます

緊急の事態は、テレビに速報が出ますし、携帯にも情報が届く時代です。自分からあえて情報の海に飛び込まなくても、大事なことはきちんと届くはずですから、安心してください

小さな目標を持ちましょう

慣れない状況が続いていくと、一人で考える時間が増えて不安が大きくなってしまいます。何か集中できるものを見つけてみましょう。ある物事に神経が向いていると余計なことを考える時間が減っていくものです

✔ 今日中に書類を仕上げる
✔ 3日以内にこの本を読み終える
✔ 今週中にクローゼットを整理する

など、大きな目標ではなく、短期間で達成できそうな身近なものがおすすめです。

これらの目標を達成するためには、家庭内での役割を決めるのもひとつの手役割があれば、やるべきことに気持ちが向き、不安が軽減することにつながります。堅苦しく考えずに、楽しむ気持ちで取り組んでみましょう。

誰もが、生きる力を持っています

役割といえば、思い出すお話があります。チリで起きた鉱山の崩落事故(コピアポ鉱山落盤事故、2010年)についてです。33名の作業員が地下700m付近に閉じ込められましたが、事故から69日後に全員無事に救出されました。狭い地下に閉じ込められ、いつ外に出られるかわからない状況でも、耐えられた理由の一つに「役割」があったと考えられます。

地下の避難所では、リーダーが作業員一人ひとりに係を与えていました。食料を管理する、雨水を汲んでくる、全員の体調を確認するなど、です。それぞれにやるべきことがあったおかげで、「助かるのかわからない」という恐怖に飲まれることがなかったのだと思います。救助された33名は、長い極限状態であったにも関わらず、みなが心身ともに健康に大きな問題がなかったそうです。

「役割」と「目標」があれば、不安のなかでも、やるべきことに集中することができ、いつしか乗り越えられるのです。

不安が強くなったら専門家に相談を

不安な気持ちが大きくなったり、心配でどうしたらいいかわからずにパニックになったり。そんな時は一人で抱え込まずに、精神科・心療内科に相談してください。医療機関は外出自粛の対象ではありませんから、重症化する前に専門家へ相談しましょう。

また、うまく眠れない、飲酒量が増えたというかたもいるでしょう。今の状況では、しかたのないことだと思います。

不眠については、「日中の過ごし方が、いい睡眠につながります」をご覧ください。

飲酒量については「自制できるかどうか」で判断してみてください。お酒を飲みたくなる気持ち自体は病気ではありません。ただ、週2回の休肝日を決めて、それを守れないようなら医療のケアが必要な可能性が高いです。

判断に迷う時、改善できない場合は、専門家へ頼りましょう。

私たち医師は、ただ薬で解決するのではなく、あなたの話を聞き、気持ちに寄り添うことができます。大丈夫です、不安になるのは当たり前ですと、声をかけることができます。あなたが抱えている不安が、正常な判断によるものか、病気によるものなのかを見極めることができます。誰かに話すことで安心できることもあるはずですから、どんな些細な不安でも相談してください。

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プロフィール

吉野 聡 先生

精神科医・医学博士、新宿ゲートウェイクリニック院長、ゲートウェイコンサルティング株式会社代表取締役

  • 取材・文/おいしい健康編集部 (web取材)

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